ハードコアの女性フライフィッシャー
カミルのこと
2017年2月9日更新
2017年は猛烈な寒さとともにはじまりました。ボーズマンでさえ外気温は華氏マイナス30度まで下がり、日中もマイナス。摂氏と違い、華氏では32度が摂氏0度。華氏でマイナスというのはずいぶん寒く、外に出ると息をするのも苦しくなります。ウエストイエローストーンから荷物を取りに来たマジソンリバーアウトフィッターのブラッドさんは「マイナス50度まで下がったよ。」と笑っていましたが。今日は久々にいい天気だったのでマジソン川でも見てこようとでかけたものの外気温は華氏13度。(摂氏マイナス10度)加えて車の戸を開けることもできないくらいの強風。釣りをするにはまだ時間がかかりそうです。
こんなに寒いときはフライでも巻けば良いのに、川での釣りのことを考える気にもならず頭の中はキューバやベーリーズの青い海、ボーンフィッシュやパーミット。マルガリータを飲みながらユカタン半島の釣りでも。。。と,この寒いモンタナから空想逃避行をしています。そんなある日、私の釣り友達のカミルエグドルフに会いました。昨年 10月にフィッシング アドベンチャー フィルム制作で有名な「CONFLUENCE FILM」が第5作目としてリリースした「PROVIDENCE」の主役として一躍有名になった彼女です。以前このモンタナ通信でも彼女のことを少しかきましたが、今回のフィルムは本当に彼女のすばらしい釣り経験が描かれていて私はとても彼女のことを誇らしく思うのです。
カミルは今20代半ば。モンタナ州立大学でマーケティングを学んでいてもうすぐ卒業といいながら、何年たったのかな???とちょっと私など心配していますが、ここはアメリカ。多くの学生さんは学費を稼ぐために仕事をしながら大学に通ったり、自分のやりたいことをするために一時休学というのは日常茶飯事で、いつでもやる気があれば復学できるというのもアメリカの大学の優れたシステムです。カミルも今学業の傍ら ボーズマンにあるフィッシングツアー会社の「イエロードッグ フィッシング アドベンチャー」で働いています。彼女との出会いは6年ほど前。ボーズマンのフライショップの「CHICA DE MAYO」という女性フライフィッシャーの恒例イベントで彼女と私はゲストスピーカーとして自分のフライフィッシング経験を話することになりました。ご両親DAVE&KIM EGDORF夫妻はアラスカブリスタルベイに注ぎ込むNUSHAGAK RIVERで「WESTERN ALASKASPORT FISHING」というフィッシングビジネスとフィッシングロッジを営んでおられ、彼女も小さいころからご両親とともにアラスカの短い夏3ヶ月を毎年過ごしてきたそうです。
一人っ子のカミルは当然のことながらお父さんのDAVEさんと物心ついたことから釣りをはじめて、十代後半にはフィッシングガイドをしていたとか。そんな話に加えかわいらしい彼女の容姿のせいでしょうか、私は彼女のことを正直なところ「裕福な家庭のお嬢さんフライフィッシャー」と思い込んでしまいました。実際アメリカには億万長者の家庭に生まれ育ち、働かなくても一流の釣り道具を持ち、世界中を好きなときに釣り歩くことのできる友達がたくさんいます。きっとカミルもそんな恵まれた人なのだろうと夫に話すと、「お金にめぐまれてるかどうかは別としてフライフィッシャーとして確かに彼女は恵まれている。」というのです。夫とカミルのお父さんは古くからの知り合いです。カミルのお父さんはアラスカでビジネスを起こす前モンタナ州のビッグホーンリバーでフィッシングガイドをなさっていたそうで、いまでもアラスカで過ごす夏以外はモンタナ州のビッグホーンリバーの近くHARDINという町に住んでいらっしっしゃるそうです。
その後も私は何度も町でばったりカミルに会うことがありましたが、いつもにこやかでやさしくでも釣りの話になると真剣になる彼女にとてもよい印象をもったものでした。そして一昨年ボーズマンで毎月一度のトラウトアンリミテッドの集まりに彼女がゲストスピーカーとして、彼女の作ったフィッシングフィルムを見せてくれました。 「FORGET ME KNOT 」彼女のご両親が営むアラスカでのフィッシングキャンプについてのフィルムです。私はこのフィルムをみてそれまで抱いていたカミルへの「裕福な家庭のお嬢さんフライフィッシャー」という思い込みが間違いであったことに気づかされました。彼女はハードコアでシリアスなフライフィッシャーであることはこのフィルムをみればわかります。ご両親が営むアラスカの原野でフィッシングキャンプは周りには何一つありません。自給自足のキャンプという言葉がぴったりくる素朴でたくましいものですし、ご両親の仕事を助けながらドリフトボートを操り大きな魚も自分で釣り上げる彼女の姿、そしてブリスタル ベイに注ぎ込む川の源流に開発が予定されている鉱山への懸念。一人の女性フィッシャーがアラスカの大自然とそこに住む野性動物や魚たちのことを守ろうと作り上げたこのフィルムは多くの感銘を受け、私もカミルのことがもっともっと好きになりました。 ちなみに「FORGET ME KNOT」のリメイクで2014年のインターナショナルフィルム フェスティバルに出されたのはこの「Unbroken」。
そんな彼女の釣り技術、情熱、行動力が新しいCONFLUENCE FILMの「PTOVIDENCE」の主役ともいえる抜擢につながったといっても過言ではありません。「PTOVIDENCE」の舞台シーシェルに向う前に彼女に偶然あって「今度の釣りの予定はどこ?」と聞いたら「シーシェル。。。。」と答えた彼女の顔はちょっと不安げだったのを今でも覚えています。インド洋に浮かぶ島々シーシェルに釣りにいった友達は帰り際にハリケーンがきて船がいつ出るかわからない状態で船に一週間近く缶詰になったといっていましたし、フィルムの中でも紹介されていますが本当にいる海賊のこと。私はいくらお金と時間があってもきっと一生いくことはない場所です。そんな危険と冒険の場所での釣りに彼女は挑み、見事にすばらしい釣りでフィルムを作り上げてくれました。
ここフライフィッシングの本場アメリカでも若者のフライフィッシング離れが叫ばれていますが、先日F3Tというフライフィッシングフィルムショーに出かけました。
カミルのように若い世代が斬新な感覚でフィルムを作り、フライフィッシングシーンを盛り上げてくれています。私たちの世代が「A River runs through it」をみてフライフィッシングの世界に引き込まれたように若い世代がカミルのフィルムをみてフライフィッシングとそれを取り巻く環境に興味を持ってくれたらいいなあと年老いた私は彼女を影ながら応援していきたいと思っています。