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11月はエルクハンティングのシーズン
昔と変らないブルーリボンフライズ

20番のベイティス スパークルダンで釣れました

ライズの嵐と雪景色

ニックの考案したベイティスソフトハックル
イエローストーン、2014年最終日
 

■ イエローストーンの閉園日に
  (ニックが残してくれたもの)

 11月13日 気温摂氏マイナス20度。早すぎる冬の訪れは気持ちの冬支度を待ってはくれませんでした。折しもわが社では2015年の春夏ものの出荷がピークをむかえ新しい半そでTシャツやベースボールキャップをみていると、なおさらどんよりとした雪空が恨めしくなります。

  11月の第1週日曜日は、北のガーディナーを除くすべてのイエローストーン国立公園のゲートがしまる日。12月中旬には許可されたスノーモービルとスノーコーチでのみで入園のためにゲートは開きますが、一般車での入園はできませんし公園内での釣りもこの日でおしまいです。

 今年の閉園日は暦の具合で11月2日なので今年はいつもより早い閉園となり、釣りができる日を損をした気分になってしまい、天気予報は雪マークなのを承知のうえでイエローストーン国立公園に釣りに行くことにしました。

 天候も悪くなり夏あんなににぎわった町もまるでゴーストタウンのようになりますが、ブルーリボンフライズに立ち寄ると私がこの町に住んでいたときと変わらずクレッグマシューズさんがタイイングデスクに座り、トップガイドで今年からお店の切り盛りをすることになったケム・ コッフンさんがブルーリボンフライズ名物の大きな来年のガイド予約帳を片手に電話をしていまいました。私はこの光景が大好きです。

 冬場雪に閉ざされた町でこのブルーリボンフライズに町で越冬している数人がフライタイイグの合間に訪れ、お酒も入っていないのに釣りの話、クレッグさんの好きなアイスホッケーの話、ときには政治の話で盛り上がるのです。クレッグさんはタイイングの手を休めることもなく、そんな世間話につきあい、マネージャーのバッキーさんやケムさんはそんなおやじたちの話をよそにジーロンの袋詰めや時よりかかってくるフライタイイングやフィッシングの質問電話に応対しています。この風景を一緒に働いていたロシア文学の修士号をもつジェニファーは「ブルーリボンフライズってフライフィッシャー専用の雰囲気のあるバーみたいなのよ。」と表現していましたが、その言葉がぴったりなのです。お金のことはウオールストリートに任せて、の魚のことはウエストイエローストーンの約7年間半、長くて厳しい冬をすごせたのもこのブルーリボンフライズのお陰ですし、フライフィッシング業界がめまぐるしく変化する中で今も昔も変わらないお店の雰囲気は私の心のよりどころになっています。

 そんなブルーリボンフライズでも、今年は悲しいことがありました。創業当時からのクレッグさんの片腕のような存在で大ベテランフライタイヤー、フィッシングガイドのニック・ニコラウスさんが今年の晩夏に亡くなりました。ウエストイエローストーンにずっと住み、この周辺の川や魚を熟知した彼はガイドとしてもリピーターが多かったのですが、私にとってはちょっと怖い存在でした。働き始めたころ、正直彼の態度は「お前になにがわかる??」といった感じであまり相手にしてくれませんでした。

 あるとき私が彼のお気に入りのクリークで釣りをした話をしていると、じろっと私を睨み「秘密にしなければならない川だ」といったのです。私は「もちろんです。あのクリークは私にとっても大事な川ですから」というと、いままで苦虫をつぶしたような彼の顔が一瞬ほころびました。また「パラシュートホッパーでよく釣れた。」という話をしていると「ホッパーなんてまだ早い」とニックがいうので私は「人間にはホッパーに見えても、魚には大型のカディスやストーンフライに見えるのかも」というとニックが妙に納得したような顔をしたのも覚えています。そんな会話をしていくうちにニックの態度もすこしずつ和らいでいきました。しかし私がウエストイエローストーンの町を去ってしばらくして彼が大病を患いフィッシングガイドもやめなければならなくなったことを耳にしました。

 その夏イエローストーン国立公園のマジソン川で釣りの準備をしていたときに、川をじっとみているニックに出会いました。そうここはニックが大好きだったポイントです。かれこれ35年以上彼はこの場所に立ち、何度ロッドを振り、何度魚を釣ったことでしょう。たとえロッドを振ることができなくても、蜉蝣の舞う初夏に川にたって水のにおいやそして魚が躍動を感じたいニックの気持ちが痛いほど感じずにはいられませんでした。

 そんなニックが逝ったこの秋、夫が友達をともにこれまたニックが好きだったファイヤーフォール川に釣りにいきました。以前とても楽しい釣りができたのにここ数年ファイヤーフォール川は私にとって不調の川です。4、5年前の大水で川底が変わってしまったのか、それとも日ごろの行いが悪いせいか天気に恵まれず、魚の顔を見ることができない日も多々ありましたので夫の釣果に期待をしていませんでした。

 ところが「ニックのフライで今まで見たこともない大きなブラウンが釣れた」と興奮気味で帰ってきました。ご存知のようにファイヤーフォールの魚は12、13インチが主流ですから18インチもあるブラウンが釣れるなんてめったにないことです。夫がいうにはなぜかいつもは使わないニックのホワイトミラーソフトハックルが目に入り、ティペットに結んで一発目で釣れたそうです。ニックと夫は古い釣り仲間。きっとそのブラウンはニックで、「俺のフライに間違いはない。信じて使ってみろ。」といいたかったのかもしれません。

 イエローストーン国立公園の閉園の日、私は産卵に上がってくる大きなブラウンを狙う釣り人でにぎわうマジソンを横目に、ファイヤーフォールに向いました。雪が舞い気温は華氏31度(摂氏0度以下)。ライズは見られず、あまりにも寒くてベイティスはハッチしないかもとがっくりしましたが、私もいままで使ったことのないニックのベイティ ソフトハックルを水面直下でスイングさせると、がつんと魚のあたりを感じて一発目で虹鱒がつれてくれました。サイズ20という小さなフックにマラードダックの肩のフェザーをハックリングさせただけのシンプルなフライを魚の口からはずすと、水にぬれてまる羽化したてたイマージャーそのものの様にみえました。ニックはどうやってこのフライを考案したのでしょう。

 そうしているうちに少し気温も上がったのか、ベイティスがハッチしはじめ川面はライズの嵐です。こんなにたくさんのライズをファイヤーフォールでみたのは何年振りでしょう。厳しい厳冬を前にイエローストーン国立公園が見せる美しい生命の躍動を見ているとそこに魚がいるということがとてもうれしく、魚を釣ることなどどうでもよくなってしまい竿をたたんでしまいました。

 下流部にたった1人だけ釣り人の姿を見つけました。最終日だといえこんな寒い日に釣りをしに来るなんてよっぽどと思ってじっとみていると、クレッグ・マシューズさん。彼もお店を早退してでもイエローストーンの最後の美しい場面を見たかったのでしょう。「釣れたかい?」と聞かれたので、「ニックのフライで釣れましたよ。」というと「やっぱりね」とうれしそうな顔が返ってきました。

 時は流れ、フライフィッシングの世界も世代交代の時期が来ています。新しい素材や最先端の技術を使ったギアやフライマテリアル、インターネットでの新しいビジネス展開。。。でもここイエローストーン国立公園とブルーリボンフライズはフライフィッシングの原点を思い出させてくれるかのように、いつまでも変らず釣り人を出迎えてくれています。クレッグマシューズ氏やニック・ニコラス氏のようなフライフィッシングの大先輩たちの足跡をたどりながらまた来年もイエローストーンに釣りに行こうと思います。

追記:先日 日本向けのコンテナがわが社を出発しました。担当してくれたテイラー君はマイクローソンさんやレネ・ハロップさんが住んでいらっしゃるアイダホ州のセントアンソニー出身の生まれながらのフライフィッシャーマン。荷造りをしながら日本に行って釣りがしたいとしきりにいっていました。彼がパッキングした新しい製品が届くころはもう年があけているかと思います。どうぞ2015年がよい年になりますよう、遠く離れた地からお祈りしています。