老人と海の世界を妄想した夢追い二人旅(セイルフィッシュ チャレンジ)

釣り人ならば一度は読んだことがあるだろう、アネースト・ヘミングウェイ著の『老人と海』。老人が小舟でカジキを釣る話だが、魚を掛けてからキャッチするまでに3日を要し、さらにそのカジキは港へ着くまでに鮫に食い尽くされるので、残ったのは骨だけ。釣り人は釣ったという事実さえあれば満足なのである。僕らはそんなロマンを抱き続ける釣り人たち。還暦をとうに過ぎた二人は初老というよりはすでに老人だろうか。タイトルを『老人たちと海』とするのがピッタリではないか。

よくよく考えてみればJGFAに所属する僕らのクラブ名は「ブルー・ウェオーター・ブルーツ(海の荒くれ者)」。トラウトフィッシングも大好きだけれど、それと同じくらい若い時から海の魚を追い続けているフライフィッシャーマンの集団なのである。

昨年、久しぶりに挑んだフライで狙う日本のセイルフィッシュ。この釣り方は独特で、魚をキャッチするためには複数人で狙うチームワークが必要な釣り。昨年にこのセールフィッシュの予約を入れる時にすぐに思ったのはその相棒としての適任者。いるではないか、我がクラブに。それもこの業界の有名人である東 知憲氏。彼との付き合いは彼が東京の大学に出てきてからになるのだから、もう43年近くにもなる。同い年で誕生日も2週間ほどしか離れていないが、お互いにジジイになりましたなぁ。

東くんはご承知の通り世界のフライフィッシングを渡り歩き知り尽くす強者で、セイルフィッシュに関しての知識は半端なく、その経験も豊富。それに僕らブルーウォーブルーツのメンバーはかつて鹿児島県の甑島でセイルフィッシュを狙い鍛えたので、日本と海外とを比較してその改善点を僕らなりに分かっているつもりである。

二人が揃えば過去の道具を持ち寄るだけで必要なものは揃うわけで、あとは僕らに必要なのは天候と魚に恵まれる時の運。体はジジイになっても二人が出会えば、それは若き日の夢を追い求める少年の目。釣る前から日本記録申請の手順をどうするかという心配するポジティブな輩。

そんな僕らが出掛けた4日間。
気になる方は以下をご覧くださいまし。

朝焼けを疾走する
昨年に予約を入れる時点で、すでにその半分以上の日程は埋まっていた。僕らは土日に縛られる必要がないので、それ以外の釣れそうな日を予約。僕ら二人は出発まで全く会わずに当日長崎へと向かったのだが、全ての準備が問題がないという素晴らしさ。昨年もお世話になった『Seasonal』は新造船になり33フィート2機掛け300馬力という、船長の思いが込められた超快適な船です。
シーズナル
森下船長から現況を聞くヒガシ先生。釣り場までは1時間以上掛かるので、僕らは色々な話をしましたよ。それにしてもこの船、本当によくできている素晴らしい船なのですが、これからも手を加える様なので、さらに進化するとのこと。
ヒガシ先生のキャスティング
現場へ到着するとすぐに、というか到着する前にハネを発見。すぐにカジキに擦り寄ってキャスティングを開始。尾鰭を出して泳ぐ魚との距離はわずか20mといった所。群れは6〜7匹でその前に彼がドンピシャのタイミングで魚の前へキャストするものの、無反応。残念ながら喰いっけが全くない個体でした。
ティボーリールと私
前日まで大シケだったので、「こりゃ釣れちゃうでしょ!」と、盛り上がる二人。しかし魚のハネは少なく、キャスティングではその射程距離に入ってくる個体はなかなかない。中弛みの時間が多くなってきた所で、釣り方をティーザーに切り替える。新しくなったアスキス12番を使って大きなポッパーパターンでキャスティング練習。手首の負担が少なく快適なロッド。
ソフトヘッドルアー
ティーザーとは”焦らす”や”からかう”という意味。なのでティーザーにはフックは無い。通常のトローリング用コナヘッドと違う所は、頭の部分がソフトヘッドで若干軽めにできており、噛みつかれても違和感がない硬さ。さらにこの下にベリーベイトというシイラの切り身を付けるのだが、前日がシケで魚が手に入らなかったので今回はこのまま引く。
ティーザーの仕組み
今回引っ張るティーザーは2種類で、魚をおびき寄せるヒコーキとラビットを組み合わせた水面をにぎやかにするもの。それと前述のソフトヘッドの二種類。僕らは右利きなので、ラビットとヒコーキの組み合わせは右舷(後方に向かって左)の近い場所にセット。そしてソフトヘッドはその後方の引き波外側の左舷(後方に向かって右)にセット。ソフトヘッドのルアーにセイルフィッシュが喰いついてきたら、タックルを用意したフライマンが左舷後方に立ち、手が空いている一人がソフトヘッドルアーを操作して仕掛けを徐々に回収して左舷に入る。魚との距離が縮まった所で、ルアーをピックアップして船をニュートラルにし、それとほぼ同時にフライを投げ込むというもの。するとセイルフィッシュは探していたルアーが無くなり、代わりに現れたフライに喰いつくというもの。この釣りは最低限この3名が必要だけれど、ヒコーキを回収するための要因がもう一人いるとありがたい。僕らはこんな面倒な釣りをしているんです。
釣船
新造船はフロントデッキがとても広く、前に突き出るレール付きのバウデッキがある。スターン(大トモ)にも体を預けられるレールが左右にあるので、釣り人はここに体を預けながらキャスティングを繰り返す事ができる。デッキ前面には滑らない素材が敷き詰められ、まさに釣り仕様の釣船。
フライフィッシング
二日目は魚が少なく前日の半分ほどの跳ね。ティージングベイトについてくる魚もない。そんな中、跳ねた魚に船長が鉤無しルアーを投げるとセイルフィッシュが喰いつく。フックがないからそのまま抜けるのだけれど、抜けた後もついてくる。するとそのセイルがソフトヘッドのティーザーに付いたので初めてチーム戦が始まる。しかしすでにルアーに喰いついたセイルはフライに少しだけ興味を示したものの、そのままゆっくりと去っていてしまった。ドンマイ、次のチャレンジでヒットへ持ち込め!
横たわるルーミスのアスキスNP
しかし、それが最初で最後。その翌日は丸一日魚を探しても跳ねさえも無く、キャスティングすることさえ一度も無かった。魚がティーザーに付いた時にすぐにロッドを持ち込める様に準備してあるタックルは、虚しくも一日中船のデッキに横たわるだけでした。
ギャンブラー
最終日は本栖湖よりも静かな凪。一日中水平線を眺めていたので視力が回復したかも。この釣りは他魚種と混ぜて釣りができないので、何もないと本当にただ一日中、体を船に預けて大海原をクールージングしているだけになる。大いなるギャンブル的なこの釣りは、お金をいくら払っても夢の魚は買えないのである。そんな魚が釣れた時の喜びは10億円の宝くじと同じ天秤にはかけられない。
フライフィッシングで狙うセールフィッシュ
かくして僕ら老人の旅は終わりました。といってもこれで終わりじゃありません。釣れるまで辞めない、新たなページが始まったかもしれないので簡単には死ねません。気がつけば空には羊雲。鹿児島で「秋太郎」と呼ばれるこの魚の季節は今です。

学びとハプニングの旅になった長崎(バショウカジキ・チャレンジ編)

セイルフィッシュ(バショウカジキ)をフライで狙うのは初めてでは無い。かつて鹿児島県の下甑島でその姿を追い回し、マレーシアのロンピンでも挑んだのでそれなりの知識を持っている。このセイルフィッシュチャレンジは昨年に予定を組み、今回の釣行に臨んだ訳なのだが、出発の直前に同行予定者がどうしても外せない用事ができてしまい、急遽私一人での釣行となった。

フライでセイルフィッシュはどのように釣るのかというと、簡単に言えばフックのついていないトローリングルアーを沢山流して魚を興奮させ、それと入れ違いにフライを投げ込むというもので、アングラー(釣り人)の他に船を操船する人、それにセイルフィッシュが来た時にティザーベイト(寄せるためのトローリングルアーまたはその他仕掛け)を回収する人が1〜2名必要になる。今回は船長と二人で一人が2役をしなくてはならず、さらにこのティーザーの用意を人任せにしていた私は、現地調達でティーザーをなんとかしなくてはならなくなった。

現地の釣具屋へ飛び込み、ラビットやヒコウキ(集魚ルアー)を探してもトローリング用品なので意外に置いてない。その中でも使えそうなものを購入して流しては見るものの急ごしらえのそれは効果が薄く、更にそのティーザーベイトを二つ流した上に、自分がフライタックルを持って待機するというのはどう考えてもうまく行かないのですぐに諦めた。考えた挙句は跳ねるカジキの群れを追って、その頭にフライを直接投げ込むという方法しか思いつかなかった。でも空気抵抗があるフライを12番のロッドでキャスティングを繰り返す体力の消耗は半端ない。

結果を先に言えば 2・0・0(ツー・ゼロ・ゼロ)である。トローリングや他の釣りでのコールサインで最初の数字はバイト(ヒット)数、次の数字はファイト数、最後はキャッチ数になる。2バイトはあったものの、フッキング率の悪いこのセイルフィッシュをファイトまでには追い込めなかったのである。

ベイトを追い回す興奮したセイルフィッシュを今までで一番の数を見たし、ひとグールプ(群で狩をする)の数も1グループで4〜8本ほどいた。船を出した三日のうち荒れた一日以外は常に魚を追い回せる好条件。魚に捕食のスイッチを入れるのはシイラやカツヲであれば散水であり、セイルフィッシュにとってはティーザーベイトがとても重要だという事を、改めて痛感した今回の釣行でした。

ということで、以下はその様子なのですが、私一人なので被写体がおらず写真をほとんど撮る事ができなかったので(カジキを追いかけ回している最中は船長も私も興奮しているので)、ロクな写真がありません。付け加えるその文章で、その興奮が伝わると良いのですが・・・。お暇な方はどうぞご覧くださいまし。

佐世保駅
目的地へは羽田から長崎空港まで。そこから路線バスを使って佐世保駅周辺に宿泊し、翌日の釣行に備える。一人でやる事がないので駅周辺をウロウロ。
ラビット
釣具店で見つけた小さなティーザーはラビットやマウスという名前で呼ばれている。しかしいつも使っているティザーはもっと大きくて3〜5個連なるものに、タコベイトなどをつけた波気を出し水面を賑やかにするためのもの。大きなカジキにこの1個ではその効果はたかが知れている・・。写真の撮り方が悪かったが、ボディに2本の羽が生えていて、簡単にいえばルアーで言うクレジークローラーみたいな羽もの。
セールフィッシュ狙い
以前ヒラスズキでお世話になったシーズナルの森下船長。一昔前に僕らが狙っていた下甑島のセイルフィッシュが地球温暖化のせいで魚のいる位置が北上し、このエリアになったと言うところ。どれだけいるのかに期待が膨らむ。
鳥山
初日は比較的凪いでいて海を見渡せる。すると所々に鳥が忙しそうに水面を突いている。さらにその周辺でカジキが連続ジャンプを繰り返すのだ。その様相はわざと水面にボディを叩きつけている感じ。今までこんなに多くのセイルフィッシュに遭った事がなかったので、最初はその行動はボラの跳ねと同じなのかと思った。しかしよく見ると、カジキは連続ジャンプを繰り返し、その方向は綺麗な円を描いている。要はボディで音を立てることで小魚の群れを追い込み。仲間達が持つセイルの方へ追い込み囲い込んでいるのだ。ナショナルジオグラフィックのセイルフィッシュの映像でもその光景は無かったので、新たな学びで高揚する。
夜明けから狙いに出かける。
普段の遊泳スピードは遅く、ターゲットへ飛びかかる時だけマックススピードで突進する。イワシの群れを追い込み集団で狩りをする様子は、痛ぶって弱った獲物を得るリカオンやハイエナの様。そんな群れがあちらこちらにあり、ジャジャ馬の様なボートで追い回す。時にそのタイミングがピッタリあって、フライに興味を示し船縁まで追ってくるのだからやめられない。あと一歩、と言うところで喰わせる事ができず1日目は終了。二日目は船を出したものの波が強く魚が水面には出てこないので、ほんの数時間で終了。そして最終日は午後に向かって強風予報なので、夜明けと共に出かける。
セールフィッシュ
朝早い時間は反応は薄かったものの、太陽の上昇と共に鳥山がたち始める。するとその水面にはセイルを広げてハンティングを繰り返すバショウカジキ。魚の写真が欲しかったので、船長にはルアーで釣ってもらうようにお願いしたのだが、チェイスは物凄くあるがヒットまでに至らない。その追い方はシイラよりもねちっこく追い回すので、そのビル(角)が船に刺さってしまうのではないかと思うところまでルアーを追い込み船縁を潜っていく。それを見て私は少し方法を変える事にし、キャストしてフライを引くのでは無く、ルアーをティザーと見立てルアーをキャストした方向を見定めてキャストする。 カジキはビルを水面に出しずっとルアーの後についてくるので、フライに近づいた時にフライを急激に動かす。するとカジキは方向を変えてフライへガブリと喰いつくのである。 ヒット!! と言いたいのですが、フライを咥えたセイルフィッシュはその場で嫌々した様な首を振り、フッキングしないのである。「ガッデ〜ム!! 」船長と私は雄叫びを上げその悔しさが海上に響き渡る。そんな感じの興奮するチャンスが数回。午後に向かって風とウネリが上がり、盛り上がっているところでフィッシングストップとなってしまった。
フライフィッシング
釣りを終えた今考えることは、ティザーベイトへの知識をもう少し高めて、この釣りを熟知したメンバーで再チャレンジしなくてはと思った。この釣りはワンチャンスに込める気迫とその思い。そしてチームワークが必要なのだと再確認した。さらにセイルフィッシュのシーズンが短く、また僕らの意気込みをかって狙ってくれる船が少ないので、まだまだ人に紹介するレベルではない。けれど、いずれは誰でも釣れるシステムになってくれる事を願って来年の予約を入れるのであった。