今は亡き伝説の友に呼ばれた気がした本栖湖釣行

ハーミット2番店(現在のお店)の営業があと2週間足らずとなり大掃除が始まったのだが、店の壁に掛かった大きなネットを皆さんはご存知だろうか? ネットの内径が1mある本栖湖大物用ネットで、ハーミット創世記にあった世捨て人倶楽部のニックネーム料理長が作ったものである。私がいつか釣るであろう本栖湖メーターアップの為に当時こしらえてくれたのだが、今は彼の形見となってしまった。

私はすでにその料理長の年齢を追い越したけれど、4つ年上で世捨て人倶楽部の皆から愛される明るい存在だった。当初は倶楽部の部長と呼ばれていたが、野反湖キャンプで振るった料理の腕前からニックネームは改名。しかしそれ以降彼の料理を口にした事はない。

その料理長は釣りの腕は大したことは無いのだが、持って生まれた釣りの運だけはすこぶる良く、特に人に貰ったフライを手にする事で釣り運が200%に増大する。そんな料理長や世捨て人の面々が私に吊られて冬になると本栖湖へ集う訳で、ある時に彼は初めて買ったダブルハンドロッドを本栖湖で投げる事となった。湖へ着くとフライを忘れたとの事で私のフライを上げることになり、どうせ練習だし釣れないだろうからと渡した一番不出来な黒のウーリーバガー。

ダブルハンドを一度も振り回した事がない料理長のキャスティングたるや、とても見ていられるものでは無かった。よせばいいのにヘソ以上の深さにウェーディングし、ラインは水面を叩き、グシャグシャになってすぐ目の前に落ちるのである。しかしその弛んだラインが急に走り出し彼はこう叫ぶのである。

「なんか掛かってる!?」

そんな調子でいとも簡単に初めての本栖湖で60アップを釣ってしまった。その翌年の芦ノ湖解禁でも釣行前日に私にフライをねだりに訪れ、同じように黒のウーリーバガーでヒレピンの60アップを釣り上げてしまう快挙。神がいるのだとすれば、彼は寿命と引き換えにその釣り運を授かったのかもしれない。

そんな事をふと思い出しながら釣りをしていた昨日。当時の掲示板で飛び交う言葉は、他の釣り人に悟られないように世捨て人だけが知り得るポイントの別名が多々あり、その料理長が釣り上げたワンドはサトウワンドとなった。

サトウワンド・うずら岩・クボ岩(別名:ウェーダーイラズ)・銀次郎・タタミ・洗濯機などなど、他にも色々と名前を付けていたなぁ。

気がつけば料理長に呼ばれたのか、サトウワンドであの時刻にロッドを振る私。

この先が気になる方は以下の写真を読み進めて見てください。

昨日の戒め:穏やかなる事を学べ(色々と考え込んでいたので)

本栖湖の釣り
今回も夜明け頃に到着しましたが、地元パワーに負けて入りたいポイントに入れず。結果2番目に良いであろうポイントへ。見る人が見ればすぐにわかるポイント。昔はエサ師がこのポイントでイクラを撒き餌にし、スジコ餌でブラウントラウトを沢山ストリンガーに掛けてました。その様はまるでバナナの様だった遠い記憶。そして彼はダブハン練習中。私はメインロッド忘れました・・。
霧の中の本栖湖
魚っけはあるのに魚信は得られないので、私は魚を探しながら急深のポイントを探ることに。するとあるポイントで久しぶりに見たバスだらけの状況。この際このバスでいいやと思いシングルハンドのフルラインで無理やりシングルスペイ。10mほどしか飛ばないのだけれど、少し沈ませてたぐると、バスとレインボーが同時にフライを追いかけて来た。奪い合ってどちらかが食いつくのかと思ったら、距離が近すぎてどちらもフライを食う事ができず。
おみやげ買うなら湖仙荘。
その後に小さめのサイズをヒット。寄せてくるとその後ろにひとまわり大きいレインボーがついて来るではありませんか。フックに掛かったレインボーは大したサイズでは無かったので、行き合った釣り人と話をしながら寄せていたらバレました。ま、ほとんど釣った様なものだから良いかな、なんて自分を慰めてお昼は湖仙荘へ。
本栖湖のブラウントラウト
飯を食いながら、かつて上がったブラウンを眺めて士気を高めます。
本栖湖
先だってに得た情報通りで動けば午後はココというポイントがあったけれど、水面を覗いてもベイトっけが無し。私の勘所でもここは無いと思い他のポイントへ移動しようと思った所、ふとサトウワンドの記憶が蘇った。そうかこの風でこの雰囲気、この時間。料理長に呼ばれてか、その場所に入ることにした。その場所は何の変哲もない障害物も少ないシャロー。黒のウーリーバガーを結び、あの時なんでこんな場所で釣れたのだろうと思いながらキャストをすると、全く同じ時刻と場所でドスンとアタリが・・。次の瞬間、魚は何度もジャンプした後にラインをどんどん沖に引き出して行った。
本栖湖のレインボートラウト
緊張感のある慎重なやり取りの末、ようやく上がってきたゴーマルアップのヒレピンレインボー。久しぶりにこんなに綺麗な個体を見ました。しかも背中はブルーバック。何を食べているのだか、歯が凄く鋭いです。
本栖湖のレインボートラウト
ついでにお話しすると私の大物ジンクスは売り物フライで、本栖記録は巻く時間が無く店から摘んで行ったコマーシャルフライ。今回はフライを無くしまくったので自分で巻いたフライを温存するために、お店で売れ残っていた不細工なウーリーバガーを持ってきていたので、それをチョイス。そんな不本意な状態の時によく大物が掛かります。
本栖湖の釣り
今が時合いだからと仲間にどんどん釣り進む様に伝え、私はしばし今釣れたレインボーの余韻に浸ります。本栖湖は3回以上通えば、大体お魚が一度は姿を見せてくれるけれど、今回はバラすことなくランディング出来て本当に良かった。料理長は私の後ろできっと笑って見ていた事でしょう。
黄昏時の本栖湖
その後は更にこの時間ならばココというポイントへ移動し、同行の友にその辺り周辺を徹底的にキャストしてもらうと、なんとヒット! が、残念ながらジャンプされた時に2Xのティペットを切られてしまいました。そんな記憶が残ると、もう本栖湖通いはもうやめられません。
本栖湖のレインボー
私も残りの時間を無駄にしないように投げていると同じくヒット。しかしそれもジャンプ一発でフックアウトされた。更にアタリが続くけれどフッキングしないので、大きなフライを管釣りサイズまで落とすとコヤツがヒット。サイズが落ちると魚のコンディションが良くないのが今までのイメージですが、最近は小さいサイズでも尾鰭の欠損が無くヒレピン。大きく育ってまた私を楽しませてね。
本栖湖のレインボートラウト
今回は上出来の本栖湖。5ヒット2キャッチ。どの個体も掛かるとすぐにジャンプをするのでバレが多いですが、そんなスリリングな釣りがこの時期から12月下旬まで続きます。大物を狙うのならば、「サトウワンド」といっても一部の人しか伝わらないですね(笑)。皆さんも本栖湖へ通ってお気に入りのポイントを作ってください。