港の木陰にいるお婆に挨拶すると、日頃の寂しさからか矢継ぎ早に釣りの話をしてきた。
「今日の満潮は12時15分。小潮だから今日は喰わないね。あたしゃ釣り好きだから、ここで色々な魚を釣ってきたよ。いつだったか、サビキで40センチを超えるクロダイを釣った事があるけれど、周りの皆には、”そいつは凄い!”と褒められたよ。ここいらじゃ釣り好きで有名なんだよ私とキミちゃんは。でも最近は腕が痛いから、こうして木陰で見ているんだよ。」
年齢を聞けば御年81歳だそうな。旦那さんはすでに亡くなったそうで、暇な時間をこうして港で過ごすという。人がほとんどいない場所だから話し相手がいないので、僕らを見つけて同じ話を繰り返し話す訳だが、やがて自分もこうなるのかと思うと、彼女の釣り自慢の話は何故か心地よい。
お昼を過ぎた頃、仲間が戻ってきて私に一言、「あれ、稲見さん、こんなところでナンパですか?」。
するとお婆は嬉しそうに、そして恥ずかしそうに微笑んだ。南国の風に吹かれて歳と共に刻まれた皺と白髪姿のお婆を見た時、ふとトラック島のインターバーさんとの思い出が蘇った。青い空と紺碧の海を持つ南国は、こんな素敵なお婆たちを育てるのだなぁ、と。
この地へボーンフィッシュを求めてやってきた僕ら。6月、7月、そしてこの10月と合わせて11日間を、ほぼこの港周辺で爆投してきた。その費用はハワイでボーンフィッシュを釣るコストのおよそ2倍である・・。その結果は時間の経過とともに盛り下がり、10月はまるで何もない。ただ爆投の日々を過ごしたのであった。費やした11日間で得たものは、南国の優しさとシークニンの味。
来年の事は年が明けたら、また考えようと思った私。
とりあえず、今年の南西諸島の釣りは幕を閉じたのでありました。