9月も中旬を過ぎたというのに日本の暑さはおさまらず、毎日ギュウギュウ詰めの満員電車に押し込まれる日々。動き出す電車は人々の体温にクーラーは勝てず、湿度の高い車内は体臭に満ち溢れている。身動きが取れない私は首筋を滴る汗を拭うことも出来ず、思わずため息が漏れてしまう。あぁ、またモンタナの風に吹かれたい・・。
モンタナ釣行から現実に戻され、早一週間。腑抜けな状態から少しずつ自分を取り戻し始めたけれど、今週はそんなモンタナを思い出して、青い空を探しに釣りへ出かけようかな。そう日本にだって素晴らしい釣り場はたくさんあるのです。
”隣りの芝生は青く見えるもの” で、アメリカのモンタナと言えばフライの聖地的なイメージがあると思う人も多いはず。しかしこの諺通りに日本の環境の良さに気付かない事も多いもの。今回はそんなモンタナの良いところと悪いところを見ながら日本の良いところを皆さんで考えてみてください。ちょっとダラダラと書きますのでお付き合いください。
モンタナについて
知らない方も多い方と思うので、少しモンタナについてお話ししましょう。モンタナ州はアメリカの北西部にあるカナダと隣接する州で、その面積はなんと日本とほぼ一緒ぐらいの大きさ。その大きさがありながら人口は宮崎県の人口(約107万人)より少し多いくらいないのである(ちなみに熊本県が姉妹提携都市)。なのでモンタナで人が満ち溢れるのは都市部と観光地のみ。僕らが訪れる釣り場なんて田舎だから、とにかくイメージは青い空と緑の大地が広がるのみで、その緑の谷間を縫って無数の河川が流れているのである。北緯で言えば北海道よりもちょっと上ぐらいの位置にあるので、ダンベイリーがあるリビングストンが日本の稚内と同じ北緯(但しリビングストンの標高は1,372m)。それだけ寒い所なので州内はどこへ行ってもトラウト天国な訳で、日本よりもトラウトを釣ることができる河川が物凄く多い。人生が何回あっても全ての川を制覇するなんて出来ないことでしょうな、きっと。
ではそんなモンタナの良いところは何か?
年券は安い:モンタナに住んでいる人は州内の釣り年券が$21。しかし僕らは住んでいないので年券は$100(約1.5万円)。でも日本全国と同じ広さを全て釣りができるのだから、安いかな? ちなみに日釣り券は$14で、5日連続券が$56(¥8,400)。今は円安なので日釣り券で考えるとチト高いかなぁ。
TAX(小売売上税)が無い:日本で言うところの消費税がありません。他の州へ入った途端、6〜10%前後掛かるので、お買い物はモンタナが良いでしょう。
お魚はどこへ行ってもネイティブ:モンタナはどこで釣りをしてもほぼネイティブ。サイズを気にしなければどこへ行っても釣れる感じで、北海道で釣りをしたことがあるのであれば、ほぼ同じような感じ。
田舎なので治安が良い:釣り場に近い町は日本の田舎と同じ。人々は優しいし治安が良いのです。私がダンベイリーで働いていた頃にニュース番組を見ていても、犯罪はほぼなく山火事のニュースばかり。私は家に鍵をかけずにいつも外出してたしね。
日本にいない固有種のトラウトが釣れる:イエローストーン国立公園内ではカットスロートトラウトが釣れます。その性格は日本のイワナに近く、見た目はレインボートラウトに近いもの。平均は30センチ前後で、大きいものは50センチを超えます。
では魚がどれだけ釣れるか?と問われると、日本の北海道と同程度で大きさや数は私の感覚だと同じくらいかな? 海外だからといって常にイレグイなんてことはありません。管釣りでは無いので、自然災害やその年の状況により変化があり、釣具屋の情報やガイド無しでの釣行では、いきなり北海道へ行って適当な川を見つけてフライを投げ入れるようなもので、それで釣れるかどうかは時の運になるでしょう。
マイナス面をお話しすれば、現在円安とアメリカのインフレをダブルパンチに受けて、なんでも高い状態。たとえばビックマックのセットは$10(¥1,500)で、モンタナはTAXが無いのでまだマシで、他の州へ行けばもっと高くなります。現在は宿の値段もコロナ禍前に比べると倍以上。エアチケットも同じ。ガソリンは1ガロン$4(1リットル¥162前後)なので日本よりも若干安い程度だけれど、以前に比べるとものすごく高いのです。そしてガイドフィーは一日約$650でチップを入れれば700〜750ドル(11万円以上)と、目ん玉飛び出る価格。トータルで5年前に比べて倍以上の価格が掛かるので(感覚的には2.5倍)、一回の釣行で一番安い軽自動車の新車が買えてしまう位の勢い。単純に大きな魚を釣りたい欲求を満たすだけであれば、北海道でガイドをつけて同じ期間を過ごせば、その費用は1/3で済むことでしょう。
故人・開高 健氏は『河は眠らない』でこんな一節を語ってました。「日頃サンマばっかり食べて生活を節約して、アラスカへ来て一生の思い出になるような魚を釣りなさい。これは一回投資しただけで、何千万回と甦って利息が付く、精神に利息が付く。無駄ではない、まったく無駄ではない。」
そんな言葉に感銘している私にとっては、財産なんてものは要らない。旅で感動した景色は筆舌尽くしがたく、それをまた体が求めてしまうのである。私とていつかは死ぬのだから、必要以上のものなど何も要らぬ。物よりも多くの思い出。だから私は死ぬまで釣りの旅に出でかけ続けることでしょう。お金が溜まり次第、またどこかへ・・。